【第二部】人づくりの実践 取り組みと変容について
第二部では、企画事務局の視点から、人材育成プログラムの実施内容についてご説明いただきました。
人づくりの具体的な取り組み内容と社員の変容
イノベーション本部で行った価値創出における調査から見えてきた現状は、以下の2つです。
- 挑戦したいと思えない社員がいる
- 自分たちなら成し遂げられると思えない社員がいる
この原因について安池氏は、「失敗への忌避や評価への諦め、上司や関係者の関わり方が上意下達の管理統制型のマネジメントであり、支援・伴走の関わりが不足している」と説明し、「新たな価値創造を創出する組織づくりのために、挑戦する人と挑戦を支援する人を増やすことが必要だ」と述べました。
大切なのは、挑戦者もイネーブラーもありたい自分を表出させること
「挑戦者にとって大切なのは、ありたい自分を知ることだ」と、安池氏は語ります。
成し遂げたいこと、守りたいこと、大切にしていることを具体化する。その想いは誰かのものではなく、自分を表現するものであればあるほど、自然と熱量を持った主体的な思考や行動が生まれ、挑戦につながります。
そして、挑戦者には、挑戦者の想いに共感し、一緒に取り組んでくれる支援者・イネーブラーの存在が不可欠です。イネーブラー自身もありたい自分を知ることで、挑戦者の想いや支援のポイントを理解できるようになります。
挑戦を生む組織づくりについて、安池氏は、「挑戦者はイネーブラーと共に進むことで、自分たちなら成し遂げられる、と思えるようになる。この取り組みを進めるにあたって、弊社と同じように、想い(WILL)を大切にした挑戦者とイネーブラーの育成を進めているウィルソン・ラーニングに伴走をお願いしました」と説明しました。
「体験」と「対話」を重視した人材育成プログラムの実施内容
今回実施した人材育成プログラムは、ありたい自分を探求し、見えてきた想い(WILL)に基づいて挑戦構想を描き、発表するプログラムです。
体験と対話を重視し、体験を通じて五感で感じ、他者との対話を通じて自分の内面に思考をめぐらせる機会を提供します。
挑戦者向けのプログラムは完全な手挙げ制で、意欲を持つ社員が参加。イネーブラー向けプログラムは挑戦者と関係性のある上司に加え、一部の手挙げ社員が参加。プログラムの効果が実務につながるようにしました。
<取り組みのようす>
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価値創造マインドセット
- 本部長も含めたイノベーション本部員全員が対象。
- 模擬経営のカードゲームを通じて価値創造にはWILLが必要であることを体感する。
- 参加者のWILLを研究所の食堂に掲示。上司や同僚のWILLを知ることができる。
- 従業員や来訪者が閲覧できるように、WILLに溢れた空間作りを重視。
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触発体験<触発>
- 挑戦者向けプログラム。社外のイントレプレナー3人と対話。
- 対話を通じて、イントレプレナーの挑戦経験、背景にある想い、ありたい自分を知り、触発の時間を過ごす。
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越境体験<解放>
- 挑戦者向けプログラム。鳥取県大山から日本海流域を訪問。
- 自然界のつながりとその恩恵を持続的に利用する地域文化を五感で体感する。
- 自然の全体性の中で水の動きを改めて見る、視座を高めることで、自分たちの水への取り組みを俯瞰して見ることを促す。
- 自分たちとは違うフィールドで自然と調和する人たちと対話することで触発を得る。
対話を通じて挑戦者とイネーブラーに変容が生まれた
プログラムの対話を通して、挑戦者とイネーブラーに驚くべき行動変容が見られました。
挑戦者 |
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イネーブラー |
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思いがけない後押しを得た、挑戦の構想発表
プログラムの終盤には、挑戦者の想いを起点に挑戦できる組織風土づくりの一環として、挑戦の構想発表会を実施。イノベーション本部と会社全体と対象規模を変えて2回開催しました。
構想発表会では、挑戦者は自身の挑戦構想を、経営層を含む多くの社員にアピールする機会を得られます。単なる発表会ではなく、聴講者がイネーブラーとして挑戦者の想いに共感し、親身に寄り添い、挑戦者へ積極的に支援のコメントを寄せる場となった結果、挑戦者の心理的安全性が確保され、さらに高い熱量を伴った挑戦の継続につながっています。
- 挑戦者が宇宙コミュニティを立ち上げ、社内外で活発に活動。
- 「ワクワクを増幅する広報活動化になりたい」と社内ポータルサイトでの発信やイベント運営を活発化する挑戦者も。
- 挑戦者同士が相互に支援し合うイネーブラーの関係性が形成されている。
ネガティブな反応への対応
取り組みの難しさのひとつとして、社内のネガティブな反応への対応があります。どのように対処したのか、次のように説明しました。
- 参加者の手が挙がらない
対応方法:一人ひとりへの声掛けや、社員食堂へのWILLカードの掲示で認知度を高める。越境編の大山合宿のように、自然に触れる体験ができることを知ってもらう。 - 「新事業開発が対象」という誤解が根深い
対応方法:イノベーション本部の役割は事業開発と技術開発の両方であること、組織メンバー全員が価値創出に取り組むことを意図していることを継続して発信。 - いつまで続くのか?と懐疑的に見られている
対応方法:取り組みについて、本部長から継続して発信。今年2年目の取り組みであり継続しているということで、見方が変わってきた。 - 忙しくて時間がない。日程をもっと短くしてほしい
事前準備などの進め方は工夫している。気づきの機会として対話の時間は確保したいので、理解が得られるように引き続き取り組んでいく。
アイデアの種が「事業」に育つまで、挑戦と支援は続く
今後の課題について安池氏は以下のように述べ、講演を締めくくりました。
「挑戦構想を会社の取り組みとして推進するためには、会社との接点を見出し、アイデアの種から「事業」へ育つまで、挑戦が続きます。継続した支援が必要であり、イネーブラーの支援、伴走能力の強化も必要です。
他者を受け止めて寄り添うということは簡単なことではありませんから、継続して高めていく必要があります」