リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素」⑤「支援」の有効性と心理学的意義

ここまでリーダーシップにおける基本要素として3つの要素「企業(組織)目的」、「目標」「フィードバック」について、脳科学の観点も交えて考えてきました。今回はリーダーシップのもうひとつの基本要素である「支援」について、同様の視点で考察を進めましょう。まず、ある実証研究をご紹介します。

リーダーシップの要としての「支援」の有効性 - ある実証研究から

立教大学教授の中原淳氏が、東京大学教育学部の准教授時代に発表された、ある実証研究があります[1]。多くのマネージャーは既読と思われますが、まずは簡単に結果をご紹介します。

中原氏は、一般にチーム・メンバーのパフォーマンスを高めるとされるさまざまな支援について、データ解析で実証的に有効性を確認しました。その結果、リーダーにとって特に身近と言える三つの支援、「業務支援」「内省支援」「精神支援」について、大変興味深い結果が得られたとのことでした。

「業務支援」とは「的確にアドバイスを与えたり手伝ったりする支援」のことです。中原氏のデータ解析によると、上司が最も頻繁に行うのはこの「業務支援」でした。ところが、上司が行う場合はパフォーマンスへの効果は弱かったのに対し、同僚や先輩からの「業務支援」には明確な効果がありました。

「内省支援」は、直接教えるのではなくヒントを与えたり少しやってみせたりして、メンバーが自分で考えハッと気づくようにする支援、また「精神支援」は、励ましたり行動を勧めたりする支援です。こちらは上の「業務支援」とは逆に、現実には先輩から、あるいは同僚同士で行われることが多かったのですが、中原氏の研究では、むしろ上司から行う方がパフォーマンスに対する有効性が高かったそうです。

本シリーズは、リーダーシップの5つの「要素」を概観することが目的ですので、「支援」の心構えや具体的なスキルについては触れませんが、上の結果については次の二点に関して、今後の変化を見守る必要がありそうです。

第一に、中原氏の研究が行われた2000年代初期に比べて、日本の組織のフラット化が加速し、活動の単位もチームである場合が多くなっています。リーダーも、課長や部長といった職務ではなく、プロジェクトの内容で決まることが多くなっているようです。

その意味で、今後ますます、上司-部下関係に基づく「部課的組織」よりも「先輩・後輩から成るチーム」による活動が増えると予想されます。上述の研究では確かに「上司の」業務支援の効果はどちらかというと希薄でしたが、「先輩による」業務支援は有効だったのですから、このようなチームのリーダーは「業務支援」でも手を抜けなくなるかもしれません。

もう一つの着目点は、中原氏の分析で、現状では「上司」という立場ではややおろそかにされがちだった「内省支援」「精神支援」についてです。これらは、フラットなチームのリーダーには(先輩や同僚なので)遂行しやすい支援ではあるものの、パフォーマンスに効果を与えるには、上司ではないとはいえ、先輩や経験者としての立場を、より明確にする必要があるかもしれません。上記のように、これらの支援は、「上司」からのものが、より有効だったからです。

中原氏の研究は、支援における、いわば「ニーズ」のズレを指摘したもので、支援の効果に疑問を呈したものではありません。また、今後の組織環境の変化次第では、各種の支援の効果も変容する可能性は十分にあります。いずれにしても、実証研究ベースで各種の「支援」の効果があることは確かですから、どの支援についてもおろそかにしてはいけないと考えたほうがよさそうです。

リーダーによる「支援」の、もう一つの心理的意義とは?

人間には、一定の心理的領域にいる時、リラックスして持ち前の能力を最高度に発揮できるという脳の仕組みがあります。これをしばしば「コンフォート・ゾーン」と呼び、最近では「コーチング」における重要なコンセプトの一つになっているようです。「コンフォート・ゾーン」という言葉は1990年代から欧米で盛んに使われ出した用語ですが、同様の概念は、実はすでに二十世紀の初め頃、動物の行動心理学などを参考に打ち出されています。

ストレスは多くの場合、仕事のクオリティを下げます。ゼロになって緊張感を失うと能力の発揮どころではない場合もありますが、特に過大なストレスは、健康にはもちろん、仕事にも悪影響を及ぼす傾向があることが、いろいろな研究からわかっています。コンフォート・ゾーンはその意味で、「適度で心地よい緊張感と集中力を保てる心理領域」と定義できるでしょう。

ところが、現代の私たちは、コンフォート・ゾーンにとどまっていては成長できず、変化に対応できない時代に生きています。というのも、確かに「現在の」コンフォート・ゾーンは「現状の」仕事においては良い環境ですが、それより上のレベルの仕事や異なる仕事をする際には、領域を移動する必要があるからです。私たちは常に、いわば「領域横断的」な仕事環境に適応しなければならないわけです。

そのような未知の領域に入ろうとしているチーム・メンバーには、多くの場合、周囲からの支えが必要です。特に、より多くの経験値を持つリーダーの支えがなければ、チームが変化を経験するたびに、コンフォート・ゾーンの移動のせいでメンバーの力がストレスや不安に妨げられて十分に発揮されず、チーム全員の目標達成が遠のいてしまう可能性があるからです。

それどころか、ストレスに押しつぶされてしまったり、元の領域にとどまろうとして変化に抵抗したりするメンバーも出てきて、メンバーもチームも成長できなくなるかもしれません。その意味で私たちはお互いの、特にリーダーの「支援」がますます必要になりつつある時代に生きていると言えます。

もちろん「支援」というと、具体的な「手伝い」や「スキルの指導」も重要な要素ではありますが、このような考え方に基づけば、支援の本来の意味である「支え」「援ける」という意識も重要です。すなわち、最初にご紹介した研究で取り上げられた「内省支援」「精神支援」のように、精神面や、知的な側面での支えを忘れてはいけないでしょう。

今やますます激化すると予想される「変化の時代」ですから、リーダーの、特にメンターやコーチとしての役割が、さらにクローズアップされる時代になってきたと言えそうです。

[1] 「職場学習論―仕事の学びを科学する」(東京大学出版会2010年)


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