初めて管理職になったら読むシリーズ③「マネジメントの能力要件」は今後どうなるのか

初めて管理職になったら読むシリーズ③「マネジメントの能力要件」は今後どうなるのか

シリーズ各回はこちらから
①基本のポイントを押さえよう
②「チームへの働きかけ」が重要な理由
③「マネジメントの能力要件」は今後どうなるのか

新任管理職のみなさん、あるいはその育成に携わる読者のみなさんを想定して、初級から中級に至るマネジメント・スキルをご紹介する本シリーズ第3回です。

第1回は、基本となるモデルを提案し、特にマネジメントの「二階層ループ」をイメージしてみました。下のモデル図の中央部分です。
組織の中長期計画に従ったチームの計画遂行(PDCAで表現)を維持しながらも、日々の変化を素早く察知して調整や変更を的確に行う「即応プロセス」(OODAで表現)を統合した「二段重ね」のループ。
これには、マネジャーが行うべき計画遂行、報連相への対応、権限委譲など、時間軸に沿って行うべき活動が含まれます。

次に、第2回では、このモデル図の右側に置かれた「チーム対応」に含まれる要素を(「育成計画の実行」を除いて)説明しました。
「チーム対応」とは、計画遂行とは別に、常時チームメンバーに対して行うべき「働きかけ」のことです。
特に最近重要なテーマとなってきているものを3つ選んでご説明しました。

今回は、前回に続ける形で、チーム対応(図の右側)の最後の要素である「育成計画実行」についてご説明します。その後、モデル図の左側に置いた「能力要件」について検討します。

マネジャーは、業務計画と同様、中長期のプランと日々の育成を連動させる

チームのマネジメントを任されてまだ日が浅い若手マネジャーといえども、チームメンバーの育成を避けては通れません。

若手管理職は自身がプレーイング・マネジャーとして活動するケースが多く、育成も、OJT(On the Job Training)に近い形になるかもしれません。年齢もメンバーと近いはずですから、先輩やメンターとして育成を行うこと自体は間違いではないのですが、マネジャーになると立場上、さらに異なる視点「も」求められるようになります。

この状況を私たちは以下のモデルで表現しています(なお図中の「目標設定」「達成度の評価」の方法論など、このモデルの詳細についてはパフォーマンス・マネジメントの「見える化」シリーズをご覧ください)。

この図形が意味しているのは、次のことです:マネジャーになっても日常の指導は必要なのですが(「日常」の青い楕円)、この日常の指導も、各々のチームメンバーの中長期の成長目標(「中長期のサイクル」)とその達成サイクルに、できる限り「紐づけられて」いなければならない、ということなのです。

昨今では、いわゆる「目標管理」を厳格に行っている組織は極めて少なくなりましたが、それでもほとんどの企業において、マネジャーは、チームのメンバー一人ひとりと、「今期はこのタスクまでは、できるようになろうよ」という形で、各々の成長の目標を共有する仕組みがあるはずです。
環境が激変する世の中で、今のところ組織は人で成り立っている以上、個人個人のスキルや知識の向上は不可欠だからです。
しかも、結果が褒賞やキャリアに連動する組織もありますから、そうなると上司としての責任は重大ですね。

したがって、マネジメントの一環としての日々の指導も、こうした中長期の目標を念頭に置くのが望ましいわけです。もちろん、ビジネスパーソンとしての基本(たとえば挨拶や言葉遣い)ができていなければ(「目標」以外でも)先輩やメンターとして、そのつどこまめにアドバイスしなくてはなりませんが、マネジャーとなった以上、メンバーの言動を観察する際にはこのような「中長期の視点」も併せ持つ必要があり、指導の場面でも、できる限りこの視点を反映させる努力が求められるのです。

なおこのモデル図で、「日常」の指導に含まれる活動を、わざわざ「広義のコーチ」と断っているのは、この場合のコーチングは、「狭義の」コーチングだけでなく、「指導」全般を指しているからです。

近年ビジネス組織にも広まっている「コーチング」は、前回ご説明したように、「心の使い方」をアドバイスする技法ですが、日常の指導は、これだけでは不足です。
特に重要なのは「インストラクション:ビジネス活動の上で必要になるスキルや知識の伝授」や「ポインターの提示:さらなる学習のリソース(たとえばビデオ素材や講習)の示唆」などで、要するにマネジャーは、メンバーの行動の変革全般について、指導・指摘しなければならない役割を担うのです。
その意味で、ここでの「コーチ」というラベルは、野球などスポーツ界で用いられる「コーチング」に近い意味を持つものと考えてよいでしょう。スポーツのコーチは、一般的に具体的な技能(体の使い方など)まで教えることが多いからです。

マネジャーの基礎体力「マネジメントの能力要件」は今後どうなるのか?

冒頭のモデル図における「チーム対応」(図の右側)の4つの要素についての考察は以上です。チームメンバーへの働きかけがこれだけで尽きるわけではないのですが、近年の心理的なチームマネジメントの柱は、何と言っても、各々が孤立しがちなメンバーの、お互いの言動の尊重に基づく効果的な連携と、創造的な仕事への意欲を高めることにあると言っても良いので、特にこの4つの働きかけに焦点を当ててきたわけです。

ここからはちょっと視点を変えましょう。

今まで焦点を当ててきたのは、マネジメントの計画遂行のサイクルや、チームへの働きかけなど、現場マネジャーにとって基本となる、しかも常に必要とされる「活動」や「言動」でした。「何を為すべきなのか」と言い換えても良いでしょう。
一方、認知科学や心理学の専門家である私たちは、こうした活動を支える「人間の能力要件」とはどのようなものなのか、についても注目しています。というのも、そのような能力要件にしっかりと落とし込まれ定着した力は、理論上、応用や転用が利き、その人の「タレント(talent)」[1]として将来的にもずっと有効なものになっていくと期待されるからです。

モデル図の左側に置いたリストがそれです。赤でマークしてみました。

「個人属性」という名の下で集められている各々の「能力要件」のタイトルは、一見すると「昔ながら」の、新奇さの乏しいラベルが並んでいるだけに見えるでしょう。時代が変化したとはいえ、マネジメントの基本要件はそう簡単に崩れないので当然ではありますが、特に今回のシリーズでは次の2テーマに焦点を当てつつ、考察していきたいと考えています。

第1のテーマは本シリーズの冒頭でも述べましたが、「変化への対応」です。

「VUCAの時代」と言われ、また「PDCAよりもOODAの時代だ」と言われ始めたのは、社会的にはコロナ禍やウクライナ以前、技術面ではAIやデータサイエンスが本格的にビジネスに導入される前でした。現在から考えればまだ社会が比較的安定していたあの時代でさえ、変化への対応が叫ばれていたのですから、現在の企業が、今まで以上に環境変化に敏感に即応しなければならないのも、やむを得ないことと言えるでしょう。
このような環境に置かれたビジネスパーソン、特にチームのマネジャーは状況の観察を怠らず、変化のきっかけを素早くとらえて真相や原因を的確に把握し、まずは最善と思われる方針を立てて(パーフェクトに情報を集められなくても)思い切って行動に移し、しかも実際にやってみて方針がフィットしていなければ、そのことを敏感に察知して、柔軟に方向性を変える能力を伸ばす必要があります。
こうした能力が不足していた場合、OODAモデルを使うにしろ、他の業務モデルを採用するにしろ、表面的な変化への、受け身の対応に手いっぱいとなり、右往左往しているだけで終わってしまいかねません。

第2のテーマが、変化しつつあるコミュニケーションの質です。
ようやくコロナ禍が落ち着きを見せ始め、リアルな集会も許されるようになりましたが、今後とも「リモートで可能な業務はリモートで遂行する」という組織が大勢を占めるでしょう。労働形態の選択も多様化するでしょうし、コスト削減圧力もいよいよ高まっていますから、少なくともビジネスでは、リアルとリモートの併用が当たり前になると予想されます。

これからのビジネスパーソン、特にマネジャーは、これまで以上に「伝わる」コミュニケーションを考えていかなければならないでしょう。口頭にしろ、文書にしろ、メディアや環境の特性をよく考えて、相手にこちらの意図が伝わりやすい話し方、書き方を選んでいかなければならないわけです。
特にリモートの場合(よく言われることですが)リアルなコミュニケーションでは比較的簡単に利用可能だった「雰囲気」や「文脈情報」、ジェスチャーは制限されますし、画角や照明、ビデオに適した文書の活用など、これまでは考えなくてもよかった新たな要素の考慮まで必要になります。
マネジャーとなれば、メンバーや外部の人々とのやりとりが日常の仕事の中心と言っても良いくらいなので、こうしたメディア特性の理解はより重要になってきそうです。

まとめ:マネジメントの足腰を鍛えるために

次回は、この2テーマ(洞察力に基づく柔軟で素早い決断と、変化するコミュニケーションの質への対応)に注意を払いつつ、リストアップした「能力要件」を概観していく予定です。
今後の環境変化は急激なものになるでしょうし、テクノロジーの進化も同様です。どんな新しい能力が必要になっていくか、未知の部分は常にありますが、本論でも指摘したように、企業が「人の組織」であり続ける限り、これらの能力要件は、マネジャーの「基礎力」として必要であり続けるでしょう。

なお、余談をひとつ付け加えますと、日本のビジネスパーソンの場合、いったん就職してからの「学び直し」の意欲が、諸外国と比較して極めて低いことが指摘されています。これは特に今後のマネジメントにおいて、大きな問題になりかねません。
マネジャーは、これからの激動の世界の中で、幅広い知識や見識を持たなければ、ここでも触れたような深い「洞察力」や自律的な「判断力」に類する能力を容易に高められないと思われます。今回の主題からは外れるので詳しくは述べませんが、その意味からも、(個人個人の努力はもちろん必要ですが)これからは組織内での、学習意欲を刺激する方策や仕組みづくりも、さらに重要になりそうです。

次回へ続きます

 


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