リモートワークの「それから」①

リモートワークの「それから」①

2020年6月、(架空の)営業部門で働く若手営業社員たちが、リモートワーク[1]についてのさまざまな会話を交わした記事が掲載されました。覚えている読者もいらっしゃるかもしれませんね(「リアル&バーチャル統合時代のコミュニケーション」シリーズです)。

当時は新型コロナウイルスの影響でリモートワークが本格化し始めたところで、誰もが初めての経験による戸惑いと、新しい仕事スタイルへの期待の双方を抱えながら、方法論を模索していました。
あれから約1年。彼らのワークスタイルはどのように変化し、どんな形に落ち着いたのでしょうか?

本シリーズでは、3回にわたり、この1年あまりの個人や組織の努力の過程で「リモートワークについてわかってきたこと」をまとめ、今後の展望につなげたいと考えています。
そのために、1年前に訪問した、あの営業組織を再び訪問し、彼らに「リモートワークの今」について語ってもらいましょう。
ところどころTipsを挟み、内外の有益な心理学的・組織学的知見を要約するスタイルも、前回のシリーズを踏襲することにします。

第1回である今回は、「リモートワークで起こりやすい心理的な課題」に焦点を当てます。情報源は主に米国のものですが、できる限り、よく参照されるものを中心としましょう。

ビジネスにおけるリアルとリモートの混在状態は続くと見た方が良い

いましも若き営業リーダーの四季さん(女性)のチームの定例会議が始まるところのようです。メンバーは前回シリーズ同様、春永さん(男性)、夏木さん(女性)、秋本さん(男性)、冬崎さん(女性)です。
チームは定例ミーティングを週に1回行っています。1年ほど前から全員がリアルに揃うことが難しくなり、Web会議システムが必須のアイテムになっていたのですが、最近はリアルでメンバーが揃う機会が戻ってきたようです。今日も5人全員がオフィスに揃っています。
当然ですが、全員マスクを着用しています。デスクは、座席ごとに透明のアクリル板で仕切られていて、部屋の隅の花瓶台には、花の代わりに大型のアルコール・スプレーが置かれています。


四季: ……ということで、チームの業績はまあまあ戻ってきているのだけど、これからの発展材料が何か欲しいな、というところなの。

春永: 確かに、これからますます経済環境は厳しくなりそうですからね。

四季: だから、Web会議システムを使ったコミュニケーションも、もっとブラッシュアップしていく必要があるわ。

冬崎: でも、そろそろリアルな商談が戻ってくるという話もありますよね。

四季: 特に日本は、リアルなコミュニケーションへの復帰を望む傾向が強いと言われている。文化の違いもあると思うけれど、そもそも広大な国土を持つ国との環境の違いが大きな理由じゃないかしら。

夏木: 確かに、米国では、コロナ禍の前からリモート化がかなり進んでいたようですね。

四季: ええ。とはいえ日本でも、コロナ以前の状態に100%の割合で戻ることはないと言われているわね。世界中の企業がリモート化を推進しているし、エコロジーという点からも好ましいとされているもの[2]

春永: 働き方改革も、リモート化を後押しするのは間違いないですね。

四季: 日本では、当分のあいだ、リアルとバーチャル半々で、いわば『様子見』の組織が多いと予想する専門家が多いみたいね。

春永: 僕たち営業は、そのどちらにも対応しなくてはいけないんですね。難しい時代だなあ。

リモートは効率的に見えても、ワーカーの心理的ストレスにはケアが必要

四季: みんなもこの1年で相当の時間、リモートで仕事をしてきたわけだけど、振り返ってみて、何か気づいたことはないかしら。

夏木: やはり仕事上の孤独感が半端じゃないですね。家族や友人たちとの交流の時間は増えたけれど、仕事に関する雑談をできる相手がいません。Web会議は時間も限られるし、原則的にオフィシャルな話題以外は出しにくいし。

四季: そうね、確かにストレスも溜まるし、周囲とのちょっとした雑談から得られる仕事のヒントも少なくなった気がするわ。

冬崎: 私なんか一人暮らしだから、友達にもなかなか会えないし、本当に会話量が激減しちゃいました。

四季: それはリモートの先進国アメリカでも問題になっているようよ。

米国でもリモートワーカーの心理的ストレスが問題に

一般にアメリカの各種調査では、おおむねリモートワークに好意的な結果が得られていると言って良い状況ですが[3]、そのような中でも、いくつかの課題が挙げられています。ここでは以下の3つを挙げましょう。

第1に挙げられがちなのが、(これは昨年の前回シリーズでも、ワークライフ・バランスの問題として取り上げた話題ですが)米国でも心理的に仕事から抜け出しにくくなっている人が相変わらず目立つことです(26 -27%という統計もあります(Bufferの調査 2021))。これは、人によっては燃え尽き症候群(バーンアウト)の原因にもなると言われ、対策が求められています。

次に挙げられやすいのは孤独感[4]。四季さんのチームの会話でも話題になっている問題です。アメリカの企業ワーカーは個人主義で他人のことを気にしない傾向と言われますが、そんなカルチャーの中でさえ、雑談に含まれる何気ない一言や励まし、気の利いたジョークなどは、やはり、組織の仕事に前向きに取り組むためには、大切なものなのです。

第3は…これは次のテーマで解説します。

 

夏木: 言われてみれば、会話の絶対量の不足は否めないわね。

秋本: 確かに……。さっきの孤独感の問題もあるけれど、ちょっとした情報交換ができなくなっているよね。

春永: それそれ! 僕たちの仕事では、そんな何気ない情報が、結構、重要だったりするんだよな。お客さんが今、些細なことで困っているとか……。

秋本: それにさ、仕事している過程で思いついたアイデアとか、思い出した事柄とか、伝えるのが難しいよ。オフィスでボソッと言葉にしたら誰かが聞いてくれたのに、リモートでは書き込むか、でなければ、電話をしなくちゃならないだろう? 形が定まっていない発想とか、その場その時に関係ない要件で邪魔するのは、やっぱり気がひけるよね。相手も、今それ? と思うだろうし。

冬崎: 私も言い忘れ、というのかな。グループウェアでもCRMでも、何か伝えきれていないことがあるような気持ちに時々なります。

四季: 実は、それもアメリカでは問題になっているの。コミュニケーションの問題というべきかな。

リモートでは「何気ないコミュニケーションの不足」に注意が必要

ひとつ前のTipsで第3の課題とし保留していたのが、コミュニケーションの問題です。これも、いろいろな調査で毎回2割近くの回答者が挙げる課題です。

リモート先進国アメリカでは、Web会議やグループウェアの他にもSlackなどのチーム・コミュニケーション・ツールや、SNS、ダッシュボードなどがフル活用されています。たとえば「テレビ電話ほどの要件ではないかな」という時には、コミュニケーション・ツールでメッセージを伝えるという具合です。そんな充実した環境においても、コミュニケーションの量や質が低下したという報告をする調査回答者が多いのです。

四季さんのチームでも話題になっていたように、細かな情報の欠落の積み重ねは、長い目で見れば、仕事に影響を与えかねませんし、「孤独感」の増加にも拍車をかける可能性があります。

 

冬崎: なるほどね。でも、こんな難しい問題、どう対処したらいいんですか?

夏木: リモート技術の進化待ち[5]……というわけにもいかないでしょうし。

リモートワークでは、オンオフのメリハリをつける工夫も必要

四季: まず『オンラインではワーカホリックになりがち』という問題だけどね、たとえば一種の儀式化が推奨されているわ。

春永: 儀式化……ですか。

四季: ちょっと面倒に見えるけれど、こんなことよ。

  • 朝、始業時刻になったら自宅でもビジネススーツに近いものに着替える
  • 仕事用のPCなどは専用スペースに置き、できれば座席の周りを何かで囲む
  • 休憩や食事はオフィスに出ている時と同じ時間にとる
  • 仕事中はできる限り家族との会話を控える
  • 終業時刻と決めた時間に仕事スペースから出て服を着替え、シャワーを浴びる
  • 終業後は、緊急の時を除き、できる限り仕事スペースには入らない

冬崎: つまり人工的に『一人オフィス環境』を作って切り替えをはっきりさせる、メリハリをつける、ということですか。

四季: そういうことね。もちろん、ITスペシャリスト、それも、たとえばギークのような人たちだったら、生活と仕事が融合していても問題はないでしょうけど、一般のビジネスマンで、『それほど忙しくないのに、心理的に仕事から抜け出しにくくて、ストレスになっているな』と感じている人は、どれか一つか二つでもいいから、試してみるといいんじゃないかな。

秋本: 確かに、人間は置かれた場所の雰囲気に左右されますからね。

四季: お金に余裕がある人だったら、気分転換も兼ねてシェアオフィスの利用も考えられるでしょうね……ただし、みんなも気をつけているでしょうけれど、オープンスペースでの仕事は、セキュリティに十分な配慮が必要よ[6]

夏木: 私もスペース作りを試してみます。

冬崎: うちは猫がいるんで、遊んでくれって乗っかってくるんですよ。無視しているとキーボードに乗っかって文字を打ち込んじゃうし。

四季: 仕事に支障がない限り、それは私にはニャンとも言えないわね。

リモートワークでも、仕事上の雑談の機会は十分に用意する必要がある

夏木: コミュニケーションや孤独感の問題はどうしたらいいんでしょう?

四季: いろいろな方法が試されているけれど、やはり、できるだけフリートークの機会を作るのが一番のようね。

冬崎: もちろん、仕事に関係したフリートークですよね。

四季: 猫の話をしてもいいけどね(笑)。今どんな業務をしているとか、お客さんの話とか、耳にした各業界の動向などが中心になるでしょうね。ただし、形式ばらずに、ふだんのオフィス内の会話のように、ちょっとした身の回りのエピソードを交えてもいいのよ。

春永: そうした雑談の時間を、無駄な時間と考えては駄目なんですね。

四季: そのとおり。チーム内だったらできれば毎日のように、仕事上の雑談をする時間的スペースを、意識して設けるのが効果的のようね。いわゆる声の大きい人に会話が偏りがちにならないように、各人が話すための持ち時間を作るのもいいかな。それと……。

秋本: 他にも?

四季: これは私のようなリーダーの立場の問題なのだけど、オンラインでも、メンバーとの1対1の対話が定期的に必要のようね。1対1の場合、どうしても当面の仕事の指示とか報連相に集中しがちだけど、メンバーの心理状態とか、将来の目標とか、仕事上の悩みとか、これはリモートの場合、リーダーが意識的に把握しておかないといけないポイントでしょうね。

夏木: 我がチームでもオンラインのフリートーク、どんどん試してみます?

冬崎: リアルでは、もうやり過ぎっていうほど、やっているけれどね。

春永: 他にアメリカで課題に挙げられていることってあるんですか?

企業内の学習環境が、これからの企業成長の鍵になるかもしれない

米国の企業では、かねてよりオンラインによる学習サービスが積極的に導入されていましたが、そんなアメリカでさえも、パンデミックにより教育が受けづらいケースが生まれていて、「もっとトレーニングを受けたい」を口にする社員も多いようです。
これをTalentLMSという企業教育プラットフォームの、2021のブログで紹介された調査結果から見てみましょう(調査回答者は全米のさまざまな業界のワーカー約1,000人)[7]
全体で61%が「もっとトレーニングを受けたい」と答えています。コロナの影響で、確かにCOVID関連(コンプライアンスも含め)の教育は急激に増えましたが、ハードスキル(技術系知識)やソフトスキル(対人関係知識)の教育の不足が目立ち始めていることが原因のようです。

組織の側にとっても教育の問題は看過できません。
というのも、「さらにトレーニングが受けられれば生産性、タイム・マネジメント、ワークライフ・バランスなどが良くなると思うか?」という問いに対して、「教育をしっかりと受けられている」と感じているリモートワーカーは、「教育不足だな」と感じているリモートワーカーよりも、平均しておよそ1割も「イエス」と答える傾向が高く、また幸福感についても同様の結果が得られているからです。
当然ですが「組織から十分な教育を受けている」と感じているリモートワーカーの方がモチベーションも高く、「その企業にとどまりたい」という意識も向上する傾向にあります。しかも、こうした人たちは、自費で学習を追加しようとする際にも、「自分の今の業務に関連した学習」を加えようとする傾向が高くなるのです。結果的に、パフォーマンスにも大きな差がつく可能性が高いわけです。組織にとって無視できない結果でしょう。

この結果には、確かにアメリカならでは、の文化的背景があるのは間違いないでしょう。
自分の専門性を「売りもの」にして転職を重ねることでキャリアを創り上げていく文化のアメリカでは、組織の提供する学習サービスの質や量は、社員の専門能力を高めるものとして、その組織の「魅力度」を高める重要な要素のひとつだからです。

とはいえ、モチベーションやリテンション率が高まりそうなことも考え合わせると、社員の「十分な学習が得られている」という認識は、「ここにいればプロとして腕を上げられる」「自分たちは会社に大切にされている」という意識を高くすると考えられ、これが回答の「前向きな傾向」を促進させているのは間違いないでしょう。
日本でも同様のことが言えるのではないでしょうか。

 

春永: コロナや働き方改革などの影響で、日本でも自律分散型の業務スタイルが当たり前になったり転職が増えたりすれば、現れそうな傾向ですね。

四季: さまざまな環境に対応可能な学習サービスを用意しておいて素早く提供できるようにしておくことが、これからの組織にとっては重要になりそうね。つまり、うちみたいにITを基盤とした企業には、ビジネスチャンスになるかもしれない……ということでもあるわ。

春永: なるほどね……。ところで、今回はリモートワークの中でも、主に心の課題でしたが、それ以外の、たとえば対人関係などで「リモートならでは」の話題って出ているんですか?

四季: では、それを次のテーマにしましょう。

次回に続きます。


 

関連記事