パフォーマンス・マネジメントを「見える化」しよう(5)

本シリーズは「パフォーマンス・マネジメント」のプロセスを基軸に、その各ステップの望ましいあり方を探ってきました。ここで言う「プロセス」は下の図です。

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これを見ると「観察」は別として、プロセスのほぼすべての部分で、リーダーとメンバーの間のコミュニケーションがポイントになることがわかります。ビジネスが人間社会の営為である以上、これは当然のことなのですが、もう一つの側面に、私たちは特に注目しています。

コミュニケーションには単なる情報や感情の伝達に加えて、「意思を伝え合い、場合によっては互いの意見の『すり合わせ』をする」という大切な目的があります。

自分の意思をできるだけ通したい、と考えるのは人情ですが、無理やり意思を押し付けようとするのは、リーダー、メンバーにかかわらず、特に昨今のビジネス・チームでは絶対に避けるべきです。

欧米では「力ずく」を避け、議論の力だけでお互いの意見を通そうとする方法が古くから研究されており、「議論学」という学問分野さえ確立されているほどです。ギリシアのデモステネス、ローマ帝国のキケローの時代から弁論術が研究され、現在でも「ディベート」という論戦のゲームが盛んに行われ勝者には高い評価が与えられていることでも、それはわかるでしょう。

実は「パフォーマンス・マネジメント」のプロセスにおいても、議論学が想定するほどフォーマルではなくても、ある程度決まった枠組みで意見を伝え合い、合意を図ることが求められる場面が、少なからず生まれます。今や日本人といえども、効果的なディスカッションの技術なくして、仕事は円滑に進まない時代なのです。

パフォーマンス・マネジメントのフォーマル・コミュニケーションの難しさ

事実、リーダーとメンバーは、パフォーマンスについての会話で、しばしば会議室などにこもってフォーマルな面談をする必要に迫られます。その典型が「評価」のための面接でしょう。

ここではリーダーとメンバーが意見を言い合い、そのメンバーがどの程度まで達成したと言えるか、さまざまな指標について合意を図ることが求められます。例えば「成果」や「成熟度」などが俎上に乗せられ、双方向コミュニケーションを通して合意に達するというのが基本形でしょう。

しばしばこうした場合に、リーダーからの一方的な意見でことが決したり、あるいは逆にメンバーの勢いに押されてしまったりという現象が見られますが、もちろん、それらは望ましい面談のカタチではありません。フォーマルな場とはいえ、やはり存分に意見を交わす(しかも冷静かつ友好的に)双方向の意見交換が望ましいのです。

そのためにリーダーは、そのような場面でのコミュニケーションについて、何を知っておけばよいのでしょうか?

パフォーマンス・マネジメントのコミュニケーションでも文脈には注意が必要!

言語学という学問領域の名前はみなさんもよくご存じだと思います。そこで最近いよいよ痛感されているのが、言葉の記号の意味は、文脈によって大きく異なるということです。つまりメッセージの発信側は文脈を利用した言葉の選択をしますし、受け手は文脈に応じて(複数の意味の中から)意味を選ぶのです。

例えば誰かが「火!」という単語を発したとしましょう。受け手は家が燃えているのを見れば発話者が「火事だ」と言っていると受け取り、相手が火のついていないタバコを差し出していれば、「火を貸してくれ」だと捉えるでしょう(ただし後者は、特別な間柄でしか通じない、ちょっと礼を失した言い方でしょうね;この「間柄」も文脈です)。

実際、早くも1958年に、現代的な議論学の泰斗で事実上の建設者とされるS. E. トゥールミン氏は「発言は特定の時間・状況においてなされるものである(中略)。私たちの議論は特定の時間・状況においてなされるのだから、議論を評価する時は、この背景に照らして実行しなければならない」という趣旨で「文脈の重要性」について述べています。要するに議論は「宙ぶらりん」の中立的なものではないのです。

もちろん文脈の読み取りはいつも確実とは限りませんし、むしろ読み間違いは、日常生活なら始終起こっているでしょう。ですが大抵の場合は問題になりませんし、笑い話で済むことも多いでしょう。

ところが、パフォーマンス・マネジメントにおけるリーダーとメンバーのコミュニケーションにおいて、こうした文脈の設定に細心の注意を払うべき場面があります。上掲のプロセス・モデルで言えば、ひとつは上記の「評価」、もうひとつは「目標設定」で、いずれも多くの場合、リーダーとメンバーがフォーマルな形でコミュニケーションを交わす可能性があるステップです。

こうした場でのコミュニケーションは、どうしても「立場の上下」という文脈が他の文脈を圧倒し、リーダーの発するメッセージは全てその文脈のもとに読み取られます。「成果」の確認などは、特にそのような文脈で読み取られることが多いでしょう。

これは企業の仕組みから見ればやむを得ないことですが、パフォーマンス・マネジメントに関わる面談がこの文脈のまま進むと、どうなるでしょうか? 

当然、このような対話の状況では、メンバーは、この場が「リーダーからメンバーへの一方的な情報伝達」の場だと認識してしまい、望ましい双方向コミュニケーションを実現しにくくなります。以前の回でも触れましたが、「目標設定」にしろ「評価」にしても、メンバーが「自己決定の意識」を持つことが内発的動機付けにとって重要なのですから、これは望ましい状態ではありません。

では、どうすれば良いのでしょうか?

パフォーマンス・マネジメントのコミュニケーションでは意識して文脈の設定から入る!

これからお話しするのは、主に上述の「目標設定」や「評価」のようなフォーマルなコミュニケーションにおける「心構え」ですが、コミュニケーションにおける文脈の役割の重要性はどんな会話でも同じですから、他の場面でも応用できます。

大切なのは、リーダーが自ら「この面談の場はね…」と切り出しつつ、面談の趣旨や目的はもちろん、双方向のコミュニケーションが可能でむしろ求められていること、コミュニケーションによって双方にとって望ましい効果が得られることなどを、事前にしっかりと相手(メンバー)に理解してもらうことなのです。

つまり文脈を「一方通行の情報伝達の場」から「双方向のディスカッションの場」へと変化させるわけです。「文脈のリセット」と言っても良いかもしれません。

往々にしてリーダーは、メンバーからの反論を恐れるあまり、一方的に話を済まそうとする傾向がありますが、それはメンバーの誤解や憤懣を放置することにつながり、いつかは爆発するかもしれず、結果的に逆効果になりかねません。

だからこそ、面接の最初の段階で、双方向でコミュケーションを取り合うことが、双方にとって望ましい効果を生むことを、事前に強調しておく必要があるのです。そうすればメンバーも無駄な反発や反論に時間を費やさず、生産的な議論を行いやすくなるからです。

とはいえ、リーダーの文脈設定がその場限りの「浮ついた」ものだったら、例えば普段そのような双方向のコミュニケーションを心がけていないリーダーの発言だったら、メンバーにもそのことは伝わり、「目標設定」も「評価」も単なる形式的なもので終わってしまうでしょうし、その後の「育成」も実が上がらないでしょう。日頃の心掛けも重要なのです。

また、こうしたフォーマルな面談の場合、リーダーは事前に「心構え」をしっかり確認しておくだけでなく、しゃべり方や態度、体の動きについても、ある程度のシミュレーションを繰り返しておいた方が良いでしょう。自然でリラックスした雰囲気で、しかもスムーズに説明しなければ、いかにも「とってつけた」ように見えかねませんし、リーダーの緊張がメンバーにも伝わって、面談全体の雰囲気が「強張(こわば)った」ものになってしまい、双方向コミュニケーションどころではなくなるかもしれません。

まとめ

本シリーズでは5回にわたり、リーダーのパフォーマンス・マネジメントについて駆け足で見てきました。このタスクはその性質上どうしても「管理」的な側面で見られがちで、従来「上からの」評価だけが注目される傾向がありました。そのため「メンバーの成長のきっかけを与える」という点から見ると不十分だったり、メンバーの学習性無力感を招いて、むしろ阻害要因になったりすることさえあったようです。

しかし、本稿で何度か述べたことですが、TEAL型組織論で典型的に見られるように、現在は組織が自律分散型に移行する過渡期にあたると言って良いでしょう。そんな時代の流れにいち早く対応するためには、(今のところ不可避な)リーダーのパフォーマンス・マネジメントにおいて、単なる成果の評価から「個を育てる」ものへと脱皮を図るべきだと考えられます。

そのような意味で、一つでも多くの組織が、メンバーの育成にも配慮したパフォーマンス・マネジメントの設計と実装に乗り出されることを願いつつ、今回のシリーズを終えたいと思います。

ご一読、ありがとうございました。


◆本シリーズに関連するウィルソン・ラーニングのコースは以下です。ご参考にしてください。
MHP パフォーマンスマネジメント

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