パフォーマンス・マネジメントを「見える化」しよう(1)

パフォーマンス・マネジメントを「見える化」しよう(1)

はじめに:リーダーのパフォーマンス・マネジメントをめぐる環境変化

このところ、コロナウイルスの問題も加わって世界経済に暗雲が立ち込め、日本の経済の先行きも、ますます見通しのきかないものになりつつあります。

多くの企業は戦略の見直しを迫られており、組織の改編が必要になる場合も少なくないでしょう。渦中にある「リーダー」「管理職」「マネージャー」と呼ばれる人々をめぐる環境が、いよいよ厳しさを増すことは避けられない情勢です[1]

確かに「働き方改革」で労働時間は短縮される方向にあり、リモートワークは一気に一般化し、副業も可能な時代となりました。非正規雇用者の処遇も徐々に改善されつつあります。労働者個人の「働き方」の自由度や選択肢が増したことは否定できません。しかし視点を変えてみれば、これは、厳しさを増す経済環境の下で、従来よりも短い時間で高い成果を出さなければならないことも意味します。

その上、ネットワークをフル活用したセンサーや人工知能のような自動化技術の導入がコスト削減の圧力もあって加速しそうで、職場が近い将来どんな風に変化するのか、専門家でさえ予測するのは非常に難しくなっています。

このような時代にあって、数字に責任を負わされているリーダーの責任は、重くなることはあっても減じることはないと言えそうです。


[1] 本稿では、このシリーズでの一貫性を保つため、「管理職」や「マネージャー」という言葉ではなく、できるだけ「リーダー」という言葉を使わせていただきます。あわせて、チームの成員についても、「部下」ではなく、できるだけ「メンバー」と呼びます。

リーダーに求められる「ポータブル・スキル」とは?

とはいえ、まず私たちは足元を見ましょう。すべてはそこから始まります。

読者が職場のリーダーでしたら、次のような思考実験にお付き合いください。現在リーダーの立場ではなくても、リーダーを目指している方は、ご自分がなったつもりでお付き合いくだされば、と思います。

さて、今はそんな気がなくても、「転職をすることになった」と仮定して、次のようなことを考えてみましょう:ご自身がこれまでいらっしゃった会社で身につけたもので、次の会社でも使えるものはなんでしょうか?

肩書でしょうか? むろん転職には強く影響するでしょう。でも次の職場では違う肩書になるかもしれませんから、これは「持っていけるもの」ではありません。

「技術知識や経験は転職のカギになるし、持っていけるものだろう?」とおっしゃる方も多いでしょう。その通りです。もちろん、ますます磨かなければなりません。

ですが、あなたが今の職場ですでに職場のリーダーで、次の職場でも同様の職務を希望されるなら、次の組織があなたに期待するのは、経験や技術知識だけではありません。何よりも期待されるのは、リーダーである以上、部下や後輩をリードし育てていきながら同時にチームに求められているパフォーマンスを上げる力でしょう。

読者のみなさんは、ご自身を顧みて、たとえば転職時の面接で「私は管理職として~を実行できるので、チームの成果を高めながら、同時にメンバーを成長させ、みんなの充実感も得られる自信があります」と、具体的に、しかも自分の経験も交えながら自信をもって「~」の部分を説明できるでしょうか? (ただし「~」の内容はむろん1つではなく、複数あるはずです)

それが可能なら、あなたの「リーダーとしてのパフォーマンス・マネジメント」の能力は次の職場まで持っていけるもの、つまり一般的に「ポータブル・スキル」と呼ばれるものに近づいている可能性が高いと言えます。さらにその言葉が、真に日頃実行している事柄やご自身の体験に基づいているなら、相手方の企業の担当者にも迫力が伝わり、「この人はきっとできるな」と感じるはずです。評価も大いに高まるでしょう。

パフォーマンス・マネジメントは意識的に磨かなければ身につかない

しかし、上記のようなスキルは、残念ながら「年齢を積み重ねれば自然に身につけられる能力」ではないようです。実際、このところ大手企業における、いわゆる「中高年層の人余り現象」でしばしば指摘されるのが、「経験を積んでいるはずなのに、部下を成長させる能力が身についていない人が多い」という点なのです。

これについて言えば、組織の、いわゆる「管理職育成」の仕組みにも課題がありそうです。

たとえば、入社して何年かすると「新人のOJTをやっておいてくれ」と言われて後輩の指導を受け持たされる機会が多いと思われますが、多くの場合は事実上「体当たり式」で、部下指導の具体的スキルまでトレーニングしてもらえる機会は少ないのが実情です。

さらに初任の管理職になれば、まずは管理職研修を受けることになりますが、担当部門の売上目標などの「管理面」を身につけるのに精いっぱいで、「育成や指導の側面」つまり「人を育てながらパフォーマンスを高めるためのスキル」を身につける能力の開発は往々にして個人任せになりがちです。

逆に言えば、このスキルを「どこにいっても発揮できる」レベルまで身につけられたら、リーダーとして一頭地抜けたと言え、自信をもってチームを率いていくことができるようになるでしょう。

そんなわけで、リーダーのみなさん、あるいはリーダーを目指すみなさんを支援する本シリーズでは、「リーダーのみなさんがチームメンバーのパフォーマンスを高め、しかも同時にメンバーの成長や充実感を得るにはどうすればよいか?」というテーマで、読者のみなさんとパフォーマンス・マネジメントをめぐるさまざまな課題について考えていきたいと思います。

ここで一言:私たちが考えるパフォーマンス・マネジメントは・・・

ただし、私たちが「パフォーマンス・マネジメント」と言う時、部下に業績を上げさせるため、個々の事情も顧みず馬車馬の尻をたたくような、英語でいうcoercive(高圧的な)管理をイメージしているのではないことは、あらかじめご理解いただきたいと思います。

パフォーマンス、つまり英語のperformanceに対応する動詞はperformで、これは「完全に」を意味する接頭辞per-(元の形はpar-)とformを組み合わせて作られた言葉でした。後者のformは古フランス語のfornirから生まれた言葉で現代フランス語のfournir「提供する」に直接つながっています。そんなわけで西欧中世のキリスト教世界では、上記のpar-fornirは現代のperformよりもずっと幅広い意味、すなわち「(より)完全な形にする」「(夢を)実現する」というニュアンスまで担っていたようです。

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つまり現代においてこの言葉が「パフォーマンス・アート」のような使われ方をする場合には、「(より)美しい型や演技を見せる」という、もとの意味に近いニュアンスで使われているわけです。ちなみに我が国の能や歌舞伎も、欧米ではしばしばパフォーマンス・アートに分類されます。

企業などで現在一般的に使われる「業績」や「達成度」のような意味は、performのコアの意味「完全な形にする」が、「完了する」「達成する」に発展し名詞化した結果、生まれた意味だと考えられます。

私たちウィルソン・ラーニングが、そのミッションとして「充実感を伴ったperformance」を考えることができるのも、その前提として、(現在一般的に使われる「成果」「業績」的な意味はもちろん含みますが)より幅広い、元来のものに近い意味で「パフォーマンス」を捉えているからと言えるかもしれません。

実際、今の時代、「業績は良いけど文化や雰囲気は最悪」という職場にいて「私たちはよくやっている」と「充実感」を感じるようなビジネスパーソンは、ほとんどいないでしょう。働く意欲や、それを高める環境やカルチャー、成長ができる仕事も、私たちの「充実感」にとっては不可欠な要素です。

言ってみれば、西欧中世におけるもともとの意味のように、企業に働く人たちの「夢の実現に近づく」ような「パフォーマンス」が望ましいはずです。

パフォーマンス・マネジメントを巡る「旅のプラン」

本シリーズでは、上記のニュアンスで捉えた「リーダーのパフォーマンス・マネジメント」についてできるだけ幅広く考えていきます。

大まかなプランとして、まず管理職のパフォーマンス・マネジメントを「プロセス」としてとらえた上で、チームメンバーと接する際に常に念頭に置くべき「原則」、チームメンバーの「成熟度」に応じた対応、そして最後に、例えば目標管理のミーティングなどでのメンバーとの「対話のステップ」といった順で、管理職の「役に立つ」事柄について整理していきます。最新の人間科学などの関連する成果についても、できる限り見ていきましょう。

第2回はこちら >

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